あの時は確かにそう思ってた。今は違うとはいえ。故に嘘ではない。

たった数十日前まで「明るい日差しと入道雲、蚊取り線香の匂いにひぐらしの鳴き声。夏が待ち遠しいなぁ。」って確かに思ってたはずなのに、いざ猛暑日を迎えるとスカッと晴れようが雲が高かろうが、ただただ早くこの高温多湿の不快感を通り過ぎたいと思う。心待ちにしてた気持ちは消える。
毎年必ず例外なく生じる心境の変化。

「もはや灯油を買うしかないか…」
って震えてた時期への待ち遠しさすらある。
あれはあれで寒すぎて震えながら不機嫌に唸り続けてたはずなのに。

その時は確かにそう思ってたはずなのに、時間が経ったらわりと綺麗に消えてる憧憬、そういうの。
そんなに綺麗に消えなくてもよくはないか、っていうくらいスッと消える。

待ち望んだものの中心で「これですよ。もうずっとこれでいこう。」ってならないのは、
今存在するものよりも、今ここにないものをいつも欲しがる態度。
この先も外気に触れるたびに毎年必ず不満を抱き続けるんだろうなぁ、っていう。

いやね、暑いとか寒いとかの不快な環境で恍惚として「もうずっとこれでいい」ってなってたら多分もう死んでるから、環境に対しての不満は全然抱いていいと思うのよ。快適な環境を探したり作ったりする熱意に繋がるしさ。
文明の発展の歴史は、たぶんこの熱意に基づいてるはずだし。

とはいえ、本当、スッと消えるよなぁ。っていうね。