経過する時間が、音楽をきいて楽しむ体験に厚みを与えてくれる。

ギターを弾き始めた頃、図書館によく行ってた。
『音楽・演劇』みたいな札の付いた棚に「初めてのロックギター」みたいな本が数冊あってさ。
借りられる期間が2週間なんだけど、2週間じゃ身につけるには全然足りないんだよね。
一旦返して、他の本を借りて、それを返す時に前の本をまた借りて、みたいに何冊かの本が私の部屋と図書館とを循環してた。

奏法の解説とか、コラムみたいな小話を読んでてもワクワクするし、それぞれの本の巻末とか章末に「必聴!伝説のロック名盤!」みたいなアルバムの紹介がされてたんだよね。
そのまま図書館で探すか、TSUTAYAまでチャリ漕いで借りに行った。TSUTAYAに行ったらついでに空のMDとか買ってた。

Deep Purple、Van Halen、Bon Joviとかは、図書館で借りた本を通じて知った。
「本を読んだ方が良いよ。世界が広がるよ。」っていう話を聞くと、その通りだな、って自分の体験から思うよ。周りにハードロックお兄さんとか、ヘヴィメタルおじさんとかいないキッズの限られた情報源だったからね。ヘヴィメタルおじさんとなった今、周りのキッズにレコメンドする機会は皆無だからね。今も、世界を広げるには自分で手伸ばすしかないよね。

そうそう、その本に「たくさん、できるだけたくさん音楽を聴きなさい。」みたいなことが書かれてたんだよね。確かベンディングとかビブラートのニュアンスを掴むために、いろんなプレイヤーの弾き方を聴き比べて学ぼう、みたいな文脈だった気がする。

完全に同意で、僕も誰かにベンディングのやり方を教える機会があったら同じことを言うはず。

あと、たくさん音楽を聞くことは他にも良いことがある。
経過する時間が、音楽をきいて楽しむ体験に厚みを与えてくれる。
初めて聞いた時の衝撃を受けたのが10代だったのか20代だったのか、昨日だったのか、アルバムによって時期は色々だったりするけど、昔きいた思い出は、昔きいてないと無いからね。
音楽そのもの魅力に、自分の体験が加わるじゃない。

例えば、ヴァンヘイレンのギターソロをね、再生速度を落として何度も何度もコマ送りみたいにしながら音を取っていったことがあるんだけどね。15秒くらいだっけな。エフェクターに付いてた耳コピサポート機能みたいなやつ。BOSSのME-30。当時の僕が手にできたテクノロジー。部屋の中ケーブルだらけにして、コンポからギターソロの部分を取り込んで、再生速度を25%刻みに下げてさ。音がすごく劣化するからギターソロの音程を書き起こしていくのが精一杯だった。

みたいな思い出は、当時きいてなかったら存在してなかったわけで。今日初めて『1984』聴いたら、どうだったんだろうな。今時期の爽快な天気にピッタリだな。それはそれで「カッコイイ!」ってなってたはずだけど、思い出アリ状態できく今の方が厚みがある気がするんだよね。

それで、その厚み。きいてきたあらゆる曲に付いたりあんまり付いてなかったりするわけだ。それが人それぞれ違って、まぁ私には私なりの嗜好が形成されてるような感じなワケだ。
音楽のきき方も少しずつ変わっていって、昔よりはよく聞こえてるとは思うんだけど、そういう成長っぽいのも『厚み』が後押ししてくれてきた結果であり過程だったんじゃあないかなってね。

何か耳に入れたいんだけど、選んでるほどの元気は無い、みたいな時『厚み』が手を引いてくれる。
自分にしかない当時の体験とか、印象にまでちょっとだけ連れていってくれる。
幸いにも今でも起こるし、これからも起こっていくであろうこの経験は、人生的にとても良い出来事なんじゃあないかって思う。だから、その時にしかきけない音楽をその時にきいていくのは良いよね。っていうお話。

「曲を作ってる時は、作業用BGMが聴けなくて困る」という話をしようとしたんだけど、まぁ、うん。